ギリシア人の物語I 民主政のはじまり(塩野七生)

 

ギリシア人の物語I 民主政のはじまり

ギリシア人の物語I 民主政のはじまり

 

 

ローマ人の物語で有名な作者が2015年ごろより刊行を始めたギリシアをめぐる物語。
 
ギリシアはローマの前の時代、紀元前5、600年ごろに花開いた文明の象徴となる。現代にも復活したオリンピックは都市国家の集合体であったギリシア人が戦争をやめるために行う4年に1回の大会として成立し、何百年もの間続いた。
 
都市国家としていくつもの国家が乱立していたが、代表的な都市といえばアテネだろう。女神アテナの守護のもと発展した都市国家である。もう1つの強国、スパルタはリクルゴスが制定した憲法により、市民が盲目的ないわゆるスパルタ教育を受け強力な軍隊を保持していた。アテネの特徴は直接民主制にある。かつては貴族制であったアテネはソロン、ペイシストラトスクレイステネステミストクレスペリクレスという五人が代わる代わる改革を続けながら発展した。
 
アテネは当初貴族制であったが、改革者たちの手によって完全に民主化されていった。とは言っても女性や子供には選挙権はなかったという。収入により市民は4つの階層に分かれた。上位の金持ちの層だからといって金を上奏すれば良いというわけではない。アテネにおける税金とは、すなわち戦役であった。金持ちは重武装をして戦う階層であった。アテネでは直接民主制がしかれ、重要なことは選挙で決まっていった。とはいえ、民衆の代表的な存在はおり、そういった人々により政治の大きな流れは形作られていった。本シリーズの1巻はアテネギリシャ都市国家(ポリス)の中でどのようにして地位を高めていったのか、という物語である。アテネは焼き物を輸出することで外貨を稼いでいた。また、紀元前5世紀というはるか昔の時代にペルシャ〜イタリアに至る広大な領域にかけての広い交易をしており、ギリシャ人がイタリア、シチリアまで入植もしていた。以前にも取り上げた「繁栄」では、この時代の地中海は盛んな交易により前後の時代と比較して非常に豊かな暮らしを享受できたと述べられていた。時代が下り、クローズドな国家が誕生するとむしろ経済的には衰退したという。しかし、重要なのは経済よりはむしろ軍事力の方であった。何百ものポリスが集まっていたギリシャでは延々とポリス同士の戦争が繰り広げられていた。その戦争を一時的にでも休戦に持ち込むために作られたのが前述のオリンピックである。しかし、ギリシャ人が一致団結した時代がテミストクレスの時代、すなわち、ペルシャとの戦いの頃である。本書の半分以上はこのペルシャとの戦いが取り上げられている。
 
結論から言えば、強大な戦力と広域な領土を持つペルシャの侵略に対して、ギリシャ人は総力を上げて防衛を行い成功した。第一次ペルシャ戦役では少数のギリシャ(ほぼアテネ)の軍隊がその何倍かの人数を誇るペルシャの軍隊にマラトンにおいて打ち勝った。そしてその後10年の間に国力を高めていったアテネをふくむギリシャは第二次ペルシャ戦役を、ギリシャの総力をかけた連合軍で迎え撃ち、撃退することができた。スパルタのレオニダス国王率いる300名の戦士の戦いやサラミスの海戦、そしてプラタイアの戦いといった戦いを経てペルシャ戦争はギリシャの勝利に終わった。
 
本書はペルシャ戦争で活躍した将軍たちの末路やペルシャの王の末路についても取り上げてある。テミストクレスやパウサニアスなど、ギリシャ軍の将軍たちは戦争後、国を追われ本意でない最後を遂げた。(Wikipediaなどの一般論ではテミストクレスは毒で自殺したと書いてあるが、本書ではそれはないだろう、としてある。)死んだ英雄はいくら讃えても害はないが、生ける英雄は権力を渇望する者にとっては邪魔者でしか無い、というのが非常に印象に残る。
 
歴史というものは後から振り返るものであるがゆえに諸説あり、という状態になりがちだ。本書にしても断りはあるものの独自の解釈が繰り広げられる部分もあり、全てを鵜呑みにはできない。しかし、ペルシャ戦争の記述やその考察についてはその当時のギリシャ側の緊迫が伝わるようで非常にスリリングだった。ヘロドトスを直接読もうとまでは思わないが、ギリシャのことが知りたいのであれば、このシリーズは読み応えもあり、良いだろう。