グルテン摂取と心筋梗塞の関係

f:id:jiir:20170504150358j:plain

グルテンフリー食は本当に万人の健康によいのか?

 

試験的に読書以外で気になる読み物の話なども書いてみようと思います。今回はグルテンフリー食の話。イギリスの医学雑誌BMJで発表された「グルテン摂取と冠動脈疾患は長期的にみて関連があるのか?」という疑問について答える研究を紹介します[1]。
 

グルテンとセリアック病

グルテンは、小麦を始め、大麦やライ麦などの穀物に含まれるタンパク質の一種[2]。巷ではグルテンフリー食が体に良いとされ、グルテンフリー食が流行り始めています。
グルテンフリー食が良い、というのはもともとは欧米の白人はセリアック病(Celiac disease, グルテン不耐症)という疾患が多かった(0.7%程度と報告されている)ことから始まります。
セリアック病をもつ人はグルテンに対して過敏な反応を示し、グルテンが含まれる食事で体調が悪くなっていました。そこでグルテンフリー食がそういった方の食生活の解決策として勧められるようになっています。
 
日本ではセリアック病は欧米程は多くないと言われています。セリアック病は内視鏡の検査とグルテンフリー食で症状が改善することを確認することで診断ができます[3]。また、グルテンに関連した免疫の異常が原因と言われており、抗体を血液検査で見つけることでも診断ができるのではないかと言われています。
しかし、セリアック病と言えないグルテン不耐症の存在も指摘されており、日本にも潜在的にそういった方がいると推定されているようです[4]。
 
そんな背景があるなか、巷では『そもそもグルテン自体が体に悪い』という説があふれており、グルテンフリー食をグルテン不耐症以外の人にも進める動きが見られるようになりました。
 

グルテンと冠動脈疾患

“体調が悪くなる”のと”冠動脈疾患”は直接的には関係はありませんが、セリアック病の方ではグルテン摂取を続けると体の炎症が持ち上がり、長期的には動脈硬化が進み心筋梗塞などの冠動脈疾患が増えることが知られています。それが一般の人口にも当てはまるのか?ということを検証した研究です。
 
f:id:jiir:20170504151801j:plain
グルテンは冠動脈疾患の発症は無かった。むしろ体に良い全粒粉の摂取が減ることでグルテンフリーの方が心筋梗塞のリスクになる可能性
研究はなんと1986年の頃からアンケート形式で調査が始まり、アンケート内容から食事内容・グルテンの摂取量を計算したものです。アンケートの対象は合計11万人にもおよび、彼らの食生活の分析と冠動脈疾患発症の関係が報告されました。結果としては、統計学的には意味のある差は心筋梗塞の発症率には見られませんでしたが、傾向としてはグルテン摂取量が多いグループの方がわずかに心筋梗塞の発症率は低いことがわかりました。さらに細かく見たサブ解析の中では、特にグルテン摂取が少ないグループの中に全粉粒摂取が少ないグループがおり、そういった人たちは心筋梗塞の発症率が高いことが分かりました。これまでに行われた調査では全粉粒は冠動脈疾患のリスクを減らすことが報告されています[5]。この結果から、セリアック病を有する訳ではない人々にグルテン摂取を減らすメリットが有るわけではなく、勧められない、という結論が得られました。もっとも、セリアック病でなくグルテンを摂取することで体調が悪くなるような人はグルテンを控えることで体調が良くなるメリットが有るようなのでそういった方はメリットがあるかもしれません。この研究には短期的な体調の変化などは考慮はされていません。
 
最近勧められるグルテンフリー食、長い目で見ると体に良い全粒粉を取らなくなることで心臓の病気の発症につながってしまうのかもしれません。
 

f:id:jiir:20170504150616j:plainf:id:jiir:20170504150611j:plainf:id:jiir:20170504150614j:plain

Abstract
・Objective
長期のグルテン摂取と心血管疾患の関連を見ること。
 
・Design
前向き観察研究
 
・Setting and participants
64714名の女性と45303名の男性。心血管疾患が無いこと。
アンケート形式で行われた。1986年から、4年おきにアップデートされ、2010年まで行われた。
 
・Exposure
グルテンの消費量をアンケートから推定した。
 
・Main outcome measure
心血管疾患(死亡に至る、あるいは死亡に至らない心筋梗塞
 
・Results
26年間のフォローアップで2273931人年の追跡が行われた。
2431名の女性と4098名の男性が冠動脈疾患を発症した。
5分位で最低のグルテン摂取のグループでは352名/100000人年の割合で冠動脈疾患を発症した。
5分位で最高のグルテン摂取グループでは277名/100000人年の割合で冠動脈疾患を発症した。
既知のリスクファクターで調節した場合にグルテン摂取が最も多かったグループでの発症リスク(HR)は0.95(95%CI 0.88-1.02, P= 0.29)であった。
whole grain(全粒粉)の摂取での調節を行った場合、HRは1.00だった。refined grain(精製粉)での調節を行った場合はグルテン摂取は冠動脈疾患を減らす傾向があったHR 0.85 (95%CI 0.77-0.93 P value=0.002)
 
・Conclusion
長期のグルテン摂取は冠動脈疾患のリスクとは関連が見られなかった。
グルテン摂取を避けることは利益をもたらす可能性がある全粒粉を減らすことなり、心血管疾患に繋がる可能性がある。
 
[1] B. Lebwhl, et al. Long term gluten consumption in adults without celiac disease and risk of coronary heart disease: prospective cohort study. BMJ 2017;357:j1892

http://dx.doi.org/10.1136/bmj.j1892

http://www.bmj.com/content/357/bmj.j1892

[2] 製粉振興会  小麦・小麦粉に係る基礎知識

http://www.seifun.or.jp/kisochishiki/tanpakusituguruten.html

[3] 岸昌廣ら. Celiac病. G.I. Research 2015;23:65-69
[4] 渡邉知佳子ら. セリアック病・non-celiac gluten sensitivity 研究の最前線. 分子消化器病 2015; 2: 38-43
[5] Aune D, et al. Whole grain consumption and risk of cardiovascular disease, cancer, and all cause and cause specific mortality: systematic review and dose-response meta-analysis of prospective studies. BMJ. 2016 Jun 14;353:i2716. doi: 10.1136/bmj.i2716. http://www.bmj.com/content/353/bmj.i2716.long