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「空気」と「世間」(鴻上尚史)

 

「空気」と「世間」 (講談社現代新書)

「空気」と「世間」 (講談社現代新書)

 

人間が健全に生きていくためには心の拠り所、価値の基準となる存在が必要である。日本はかつてのムラ社会のような閉鎖的な共同体、つまり「世間」を基準においていた。一方で一神教社会である欧米では神という絶対基準の元で個人として生きる。近年では慣習や共同体の評判に居心地の悪さを感じる日本人が増えてきているが、完全な個人主義で生きていられるほど強い人は多くない。日本人は共同体と個人の間の価値観を上手く渡り歩く行き方を世界に先駆けて実践していくべきである、という事を本書は提言している。内容は思い悩む中学生程度の生徒でも読めるように平易に書いたようで、語り口調(あえて丁寧語で読みやすく書いてある)で読みやすい。日本人が抱える世界の常識と異なる特性について描かれた内容としては共感を呼びやすいのではないだろうか。誰しも「普通に考えたらおかしいのに、この場の雰囲気として反対意見・自分の意見を言いにくい」と思ったことはあるはず。日本人に特有なそういった場の雰囲気に流されるという事が「社会」と「世間・空気」といったキーワードを中心に解説されている。

 

第1章「 空気を読め!」はなぜ無敵か。
第2章 世間とは何か
第3章 「世間」と「空気」
第4章「空気」に対抗する方法
第5章「世間」が壊れ「空気」が流行る時代
第6章 あなたを支えるもの
第7章 「社会」と出会う方法

 

○ 社会と世間
 社会という日本語は西洋近代の仕組みを取り入れるために明治時代に作られた。国家を運営する制度の単位として、行政、司法を動かすために必要であった。それ以前の日本人は村、共同体といった小さい組織の価値観の元に暮らしていた。近代化が国の制度に行き渡った後でも日本人の価値観にある小さな共同体の通念は無くならない。”自分に関係のある世界を「世間」”、”自分に関係のない世界を「社会」”と日本人は呼ぶ。日本人の行動は世間を強く意識したものである。社会という広い概念と通じて行くためには世間という狭い共同体を外れ、個人の価値観を拠り所に行動をとる必要がある。

 

○ 世間と空気
 日本人が意識する世間というのは5つの特徴を備えたものである。1.贈与・互酬の関係、2.長幼の序、3.共通の時間意識、4.差別的で排他的、5.神秘性、である。世間は会社や近所付き合いでも登場する。例えば、旅行に行きお土産を買って相互に受け渡す慣習。他の価値基準よりもとりわけ年功序列を重視する。時間意識に関しては少し分かりにくい。個人主義と対比するのが良いが、個人が自分の時間軸を持つわけではなく、共同体の中に共通する時間軸、あるいは感覚・価値の元で生きているといった感じ。こういった特徴的な結びつきを持つがために他の共同体のに対しては差別的となり、中のルールは絶対的なものとして破る事が出来なくなる。
空気はその5つのルールの中の一部を備えたもの。例えば、テレビ番組の中で司会者が求めるものと異なる返答をしてしまう若手などに、TPOをわきまえない返事をしてしまったときに「空気が読めない」と使われる。日本では「空気」は昔から影響力を持っていた。論理的に考えたら全く支持する根拠のない特攻なども戦時の日本の「空気」がそうさせた。空気とは、集団心理により自分の意思と関係なく行動をとらせるものを言うのではないだろうか。

 

○ 日本人、欧米人の心の拠り所
 空気を読むこと、世間体を気にすることで個を抑えるといった行動をとるのは日本人の特徴とされる。しかし欧米人もかつてはそうだった。キリスト教ユダヤ教の教えが絶対的な価値基準である神を人々の中に植え付けた。規範となるのはカトリックでは教会であり、プロテスタントやその中の福音派ではそれが聖書となる。欧米人にとっての絶対的な基準は神である。神が許すのかどうか自分に問いかける。欧米の個人主義は神に裏打ちされている。
日本人も最近共同体という拠り所から離れる傾向がある。これは都市化、経済的・精神的グローバル化によるものである。利害関係が無くなることにより、共同体はその意義を失いつつある。世間からはなれ、個人として利益を享受することの快適さに一度慣れてしまうともう元には戻れなくなる。
アメリカ人も最近は変化してきている。格差が広がる社会では貧困層も増えており、医療保険にも加入できず不安を抱えながら暮らしている。不安から神を頼りとして、また、白人が特権的であった過去の考え方に回帰する層が出ている。

 

○ 日本人はこれから何を拠り所にするのか
 世間と社会の中の人間の在り方として、①世間(=共同体)に完全に依存する、②より個を強め、社会の中の個人として生きる。③世間、社会の間を行き来する、といった3つのあり方が想像できる。現代では日本人も「世間」から徐々に脱却しつつあり、社会へ開かれようとしている。この状況で日本人が取るべき選択肢は③ではないだろうか。というのが本書の見解。社会の中で個人として生きるには日本人には神に相当する絶対基準を持つことは難しい。ダブルスタンダードをいち早く取り入れることが良いのではないだろうか。

 

「世間」とは何か (講談社現代新書)

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 本書中でも頻繁に紹介される書籍。

 

 

日本の思想 (岩波新書)

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日本人の特性について描かれた本として、以前にも取り上げた書籍。こちらは本格的な内容なので内容は難しいが、歴史的名著。