さよならの先(志村季世恵)

 

 

さよならの先 (講談社文庫)

さよならの先 (講談社文庫)

 

 

 

ダイアログ・イン・ザ・ダークというイベントを開いていることで有名な方の本。全盲の患者の世界を体験するというダイアログ・イン・ザ・ダークの活動の話は最終章で少し紹介されるくらいで、本書はセラピストとしての活動の中で終末期の患者とどのように向き合ってきたのかという話。

志村さんはもともと旦那さんと二人で薬局の仕事とセラピストとしての活動をしてきたという。旦那さんとが2007年に急逝されたその前後の頃にセラピストとして出会った何人かの終末期の方々の話が紹介される。

 

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多くは比較的若い段階でがんに罹患、治療を行う中病状は悪くなり、生への絶望に苦しむ中で志村さんをしり、助けをもとめて知り合っている。自閉症の子供が社会へ出ることへの支援などもされていたようだ。医療を提供するという活動の中で医師ができることの中で中心にあるのは疾患の治療であると思う。しかし、現代の医療はそれだけでは完結しない。志村さんのような精神面のケアをする方は医療現場に欠かせないものになっており、診断の衝撃や、治療への不安、うまくいかない時の心のケアに大きな役割を持つ。

治らない病気や、がんの末期になった時にどうやってその事実を受け入れていくのかというのは人により本当に異なっている。自閉症の子供には時間をかけて両親が受け入れられるようにして、子供はその能力の範囲の中で生きる道を見つけてもらう。がんの末期の方々には必要な支援がなんなのか、それぞれ個別に考えて支援をする。その人の生活の中に出会ったばかりのセラピストが入り込んで全人的な支援を行うというのは「これが本当に仕事になるの!?」というようなものも多い。ほぼ自発的な優しさからこういった支援をされているのだと思った。実際の医療現場や患者の中にも家族がいない人や身寄りがない人は多く、そういった人が最期を迎えるにあたり、非常に不幸な気持ちのまま過ごすということが多いように思う。人の関わりとか生きがいとか、そういった事は医療行為として値段に算定できないものではあるけれど患者にとっては金銭に変えられない大きな価値になるものなのだと思う。

筆者は一人一人に寄り添い、その時にどう考えたか、ということをありありと描くが、一般論を語る事は少ない。身近な人が終末期を迎えた時、本書の読者が本書のことを心の片隅い思い出しその時毎に優しく手をそえてあげられるようになれば、と思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

ワーク・シフト (リンダ・グラットン)

 

ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉

ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉

 

 

 向こう数十年の世界を形作る5つの要因

・テクノロジーの進化
グローバル化の進展
・人口構成の変化と長寿化
・社会の変化
・エネルギー・環境問題の深刻化

 産業革命の世界でも、テクノロジーの進化に続いてエネルギーの進化が起きることで社会が劇的に変化していった。現在の私達の世界で起こりつつあるテクノロジーの変化の最たるものが今後50億人が世界中でインターネットで繋がる社会が実現されることだろう。インターネットで繋がる世界のグローバル化、また、人口の都市へのシフトの結果、都市の内部には高度な教育を受けたエリート層と、貧困層が共存するようになる。グローバル化第二次世界大戦の後から進んだ現象で、年代層が下るにつれて20世紀の後半に起きた劇的な技術的進歩がより生活に馴染んだものになった。1990年代後半に生まれた世代は物心がついた頃からインターネットにつながれた世界で過ごし、SNSがごく当たり前の社会で暮らしている。しかし人口は若年層以外のベビーブーマーの世代が最も多く、先進国では21世紀中盤になると高齢者が人口の多くを占めるようになる。イタリアのように(日本も同様だろうが)高齢化が進む地域では、年金支給開始年齢を引き上げるか多くの移民を受け入れるしか解決策がなくなるかもしれない。エネルギーの問題も全くまだ解決されていない。エネルギーをどこから拠出するのか、環境問題をどのようにしてクリアするのか?場当たり的な政策ではなく、着実に技術を進歩させることが非常に重要である。

 
本書では予想される未来にもとづいて6パターンの生活スタイルが例証される。
 
◯ 働き方の未来と取るべきシフトの内容
インターネットが全ての場所を繋ぎ、ワークスタイルは激変する。家、リモートな職場を駆使して朝から寝るまで世界中とつながり仕事をする生活。時間は細切れになり、絶え間なく降り注ぐ仕事をこなす毎日。筆者は警鐘を鳴らし、常に何かに追われることで腰を落ち着けて物事に取り組むことができなくなることを心配している。
 
“私たちは仕事の世界で「気づかないうちに積み重なる既成事実」に慣らされてはいないか”
 
“時間に追われるあまり、価値ある技術や能力に磨きをかける機会をなくしている”

 

この未来からの脱却のためには次の3つが必要だと説く。
・専門技能の習熟に土台を置くキャリアを意識的に築く
・せわしなく時間に追われる生活を脱却しても必ずしも孤独を味わうわけではないと理解すること
・消費をひたすら追求する人生を脱却し、情熱的に何かを生み出す人生に転換すること

 

また、インターネットによるつながりの裏で、実際に職場で顔を付き合わせる事が少なくなり、孤独が広がるかもしれない。そうした未来を切り開くためには3つのタイプの人的ネットワークを構築する必要がある、
 
・「ポッセ(同じ志をもつ仲間)」。いざというときに頼りになり、長期に渡って互恵的な関係を築ける少人数のグループ
・「ビッグアイデアクラウド(大きなアイデアの源となる群衆)」多様性に富んだ大人数のネットワーク
・「自己再生のコミュニティ」。頻繁に会い、一緒に笑い、食事をともにすることにより、リラックスし、リフレッシュできる人たち

 

 
◯ 働き方
私は米国で言うY世代(1980年代〜1990年代生まれ)に相当する。自分がそうであるように、Y世代は”仕事でとりわけ重きを置く要素は、学習と成長の機会を得られること"であるようだ。この世代は今後ワークライフバランスを重んじるようになる。そして自由を求め、創造性を発揮することが大事にされる。先に触れた付き合うべき人々が重要になる。本書で触れた好ましい未来において活躍する人々はインターネットを駆使してゴリゴリ働く人々よりはむしろ喜びのために働く人々だ。自分がやりたいことのために社会貢献をすること、自分の才能・趣味を手工業のように小規模事業者として社会に出していくこと、人々のつながりをうまく利用してプロジェクトを想像していく人が紹介される。こうしたことができるようになるためには以下が求められる。 
“今必要とされているのは、昔の職人のように自分の専門分野の技能と知識を深める一方で、他の人達の高度な専門技能と知識を活かすために人的ネットワークを築き上げることだ。”
“そのうえ、リスクを回避するために複数の専門分野に習熟しなくてはならない。一言で言えば、連続スペシャリストになることが不可欠なのである。”
“技能や能力が高い価値を持つためには、他の人にまねされにくいものである必要がある。”

 

こうした模倣されにくい専門技能として、生命科学・健康関連、再生可能エネルギー関連、創造性・イノベーション関連、コーチング・ケア関連が挙げられている。専門性を磨いた上でポッセやビッグアイデアクラウドの人々と協力して専門の集中と多様性を活かした仕事を勧めていくことが今後の創造的な仕事を生み出していく。
 
働き方や仕事で生み出す価値に対する考え方は世代によってもかなり異なっているようにも思う。長期に渡って続く組織のトップの多くは「一所懸命」といった働き方で組織を支えた人が多い一方で、30代・40代のリーダーの中にはマルチな才能を活かして活躍する人も多い。Y世代、Z世代の多くが社会でリーダーとなるのはこれからの2020年代・2030年代になる。そう遠くない未来で活躍するためには時代が求めるものやテクノロジーを知り、多くの選択肢の中から限られた時間で自分の生き方をデザインする考え方が重要になるように思った。

ギリシア人の物語I 民主政のはじまり(塩野七生)

 

ギリシア人の物語I 民主政のはじまり

ギリシア人の物語I 民主政のはじまり

 

 

ローマ人の物語で有名な作者が2015年ごろより刊行を始めたギリシアをめぐる物語。
 
ギリシアはローマの前の時代、紀元前5、600年ごろに花開いた文明の象徴となる。現代にも復活したオリンピックは都市国家の集合体であったギリシア人が戦争をやめるために行う4年に1回の大会として成立し、何百年もの間続いた。
 
都市国家としていくつもの国家が乱立していたが、代表的な都市といえばアテネだろう。女神アテナの守護のもと発展した都市国家である。もう1つの強国、スパルタはリクルゴスが制定した憲法により、市民が盲目的ないわゆるスパルタ教育を受け強力な軍隊を保持していた。アテネの特徴は直接民主制にある。かつては貴族制であったアテネはソロン、ペイシストラトスクレイステネステミストクレスペリクレスという五人が代わる代わる改革を続けながら発展した。
 
アテネは当初貴族制であったが、改革者たちの手によって完全に民主化されていった。とは言っても女性や子供には選挙権はなかったという。収入により市民は4つの階層に分かれた。上位の金持ちの層だからといって金を上奏すれば良いというわけではない。アテネにおける税金とは、すなわち戦役であった。金持ちは重武装をして戦う階層であった。アテネでは直接民主制がしかれ、重要なことは選挙で決まっていった。とはいえ、民衆の代表的な存在はおり、そういった人々により政治の大きな流れは形作られていった。本シリーズの1巻はアテネギリシャ都市国家(ポリス)の中でどのようにして地位を高めていったのか、という物語である。アテネは焼き物を輸出することで外貨を稼いでいた。また、紀元前5世紀というはるか昔の時代にペルシャ〜イタリアに至る広大な領域にかけての広い交易をしており、ギリシャ人がイタリア、シチリアまで入植もしていた。以前にも取り上げた「繁栄」では、この時代の地中海は盛んな交易により前後の時代と比較して非常に豊かな暮らしを享受できたと述べられていた。時代が下り、クローズドな国家が誕生するとむしろ経済的には衰退したという。しかし、重要なのは経済よりはむしろ軍事力の方であった。何百ものポリスが集まっていたギリシャでは延々とポリス同士の戦争が繰り広げられていた。その戦争を一時的にでも休戦に持ち込むために作られたのが前述のオリンピックである。しかし、ギリシャ人が一致団結した時代がテミストクレスの時代、すなわち、ペルシャとの戦いの頃である。本書の半分以上はこのペルシャとの戦いが取り上げられている。
 
結論から言えば、強大な戦力と広域な領土を持つペルシャの侵略に対して、ギリシャ人は総力を上げて防衛を行い成功した。第一次ペルシャ戦役では少数のギリシャ(ほぼアテネ)の軍隊がその何倍かの人数を誇るペルシャの軍隊にマラトンにおいて打ち勝った。そしてその後10年の間に国力を高めていったアテネをふくむギリシャは第二次ペルシャ戦役を、ギリシャの総力をかけた連合軍で迎え撃ち、撃退することができた。スパルタのレオニダス国王率いる300名の戦士の戦いやサラミスの海戦、そしてプラタイアの戦いといった戦いを経てペルシャ戦争はギリシャの勝利に終わった。
 
本書はペルシャ戦争で活躍した将軍たちの末路やペルシャの王の末路についても取り上げてある。テミストクレスやパウサニアスなど、ギリシャ軍の将軍たちは戦争後、国を追われ本意でない最後を遂げた。(Wikipediaなどの一般論ではテミストクレスは毒で自殺したと書いてあるが、本書ではそれはないだろう、としてある。)死んだ英雄はいくら讃えても害はないが、生ける英雄は権力を渇望する者にとっては邪魔者でしか無い、というのが非常に印象に残る。
 
歴史というものは後から振り返るものであるがゆえに諸説あり、という状態になりがちだ。本書にしても断りはあるものの独自の解釈が繰り広げられる部分もあり、全てを鵜呑みにはできない。しかし、ペルシャ戦争の記述やその考察についてはその当時のギリシャ側の緊迫が伝わるようで非常にスリリングだった。ヘロドトスを直接読もうとまでは思わないが、ギリシャのことが知りたいのであれば、このシリーズは読み応えもあり、良いだろう。
 

チャーチル・ファクター(ボリス・ジョンソン)

 

 

第1章◆ヒトラーと断固として交渉せず
第2章◆もしチャーチルがいなかったら
第3章◆裏切り者のいかさま師
第4章◆毒父、ランドルフ
第5章◆命知らずの恥知らず
第6章◆ノーベル文学賞を受賞した文才
第7章◆演説の名手は一日にして成らず
第8章◆尊大にして寛大
第9章◆妻クレメンティーン
第10章◆代表的英国人
第11章◆時代を先取りした政治家
第12章◆報復にはノー、毒ガスにはイエス
第13章◆戦車の発明者
第14章◆超人的エネルギー
第15章◆「歴史的失敗」のリスト
第16章◆同盟国フランスの艦隊を撃沈
第17章◆アメリカを口説き落とす
第18章◆縮みゆく大英帝国の巨人
第19章◆鉄のカーテン
第20章◆ヨーロッパ合衆国構想
第21章◆「中東問題」の起源
第22章◆一〇〇万ドルの絵
第23章◆チャーチル・ファクター
 
2016年のイギリスのBrexitに関する国民投票の時にも一躍有名になった、イギリスの政治家ボリスジョンソン氏が書いた、チャーチルの本。
 

第二次世界大戦時のイギリス首相、ウィンストン・チャーチル

1940年、ナチスがヨーロッパ全土の制覇を狙い破竹の勢いでヨーロッパの国々を破っていた中、チャーチルは首相として任命された。チャーチルは断固としてナチスドイツと戦うことを決意し、議会、そして国民に呼びかけた。チャーチルの演説は非常に上手く書かれていた。別の言い方をすれば、チャーチルの演説はその愛国心から、熱意からその場で紡ぎ出されたようなものではない。用意周到に予め言葉を選び作られたものが人々の前で発言されていた。1900年から議会で活躍をする中で、様々な失敗はあったものの、首相になるまでに数々の政府のポストに任命され、職務を全うしてきた。必ずしもその評判が高かったわけではないものの、それまでの間に数々の戦争で実際に現地に赴いたりして戦ったことがある首相として、チャーチルは戦時の首相には非常にフィットしていた。強い愛国心で戦争の時代のイギリスを率いた。
 

政治家以外にも多彩な人物

政治家としてのチャーチルが日本で最も有名な姿だと思われる。山高帽をかぶり、葉巻を口にくわえ、人々に手を振った姿が私にとっても一番印象的だ。しかしチャーチルの才能はそれのみにはとどまっていなかった。もともとイギリス史において戦争で活躍したという先祖を持ち、貴族の家庭に生まれたチャーチルであったが、必ずしも幸せな家庭に生まれたとは言えない。親との会話などもほとんどなかった。父親は政治家として活躍していた。若き日のチャーチルが多忙な父親に認められたことはほとんどなかったという。政治家として大成していく前のチャーチルのキャリアはジャーナリストであった。戦地に実際に赴いて書いた記事を寄稿していた。記事の質は高く、売れっ子のジャーナリストとして大きな額を稼いでいた。政治家になっても物書きは続けていた。といっても書くスタイルは非常に贅沢なもので口述を秘書に書きとらせるといったことを毎晩毎晩行なっていた。生涯でチャーチルが著した書籍は31冊にも及ぶという。それにくわえて様々な記事や議会の演説、財務相の時には膨大な予算案の作成など、チャーチルのエネルギーはとどまることを知らなかった。文学の方面では何とノーベル文学賞までも受賞している。また、チャーチルは絵画も趣味として、生涯で数百もの絵画を残している。
 

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著者、ボリス・ジョンソンの意図

チャーチルの伝記として、非常に細かい取材を繰り返して書いた本であることがうかがわれる。ボリスジョンソンはチャーチルが大好きなのか、各章の記述においてチャーチルを擁護するような記述がよく目立つ。イギリスの近年の政治、というかヨーロッパの近年の政治でも特徴的ではあるがナショナリズムの台頭の雰囲気を本書からはどうしても感じてしまう。それはボリス・ジョンソンがジャーナリストであると同時に政治家であることに起因していると思われるが、様々な事例の解釈が非常にイギリスよりである。というかイギリス人がイギリス人の英雄を称えるために書いた本なので当たり前なのかもしれないが、解釈に政治的な意図をどうしても感じてしまう。強いイギリス、大英帝国のリーダーであったイギリス、英国人としてのアイデンティティ、イギリス人が生み出した様々な発明のことなどが讃えられる。さらに本書で度々触れられる同性愛者や女性参政権についての話であったり、後半には共産主義について、EUについて、そのなかでイギリスがどういった立場をとっていくかについてはどうしても著者の意見が透けて見えてしまうものなのだろう。ナショナリスティックな意見を客観的に受け止めるつもりで本書を読むと、批判的な意見も肯定的な意見も第三者的な解釈ができるようになり、イギリス人からみたチャーチル像が浮かんでくる。
 

グルテン摂取と心筋梗塞の関係

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グルテンフリー食は本当に万人の健康によいのか?

 

試験的に読書以外で気になる読み物の話なども書いてみようと思います。今回はグルテンフリー食の話。イギリスの医学雑誌BMJで発表された「グルテン摂取と冠動脈疾患は長期的にみて関連があるのか?」という疑問について答える研究を紹介します[1]。
 

グルテンとセリアック病

グルテンは、小麦を始め、大麦やライ麦などの穀物に含まれるタンパク質の一種[2]。巷ではグルテンフリー食が体に良いとされ、グルテンフリー食が流行り始めています。
グルテンフリー食が良い、というのはもともとは欧米の白人はセリアック病(Celiac disease, グルテン不耐症)という疾患が多かった(0.7%程度と報告されている)ことから始まります。
セリアック病をもつ人はグルテンに対して過敏な反応を示し、グルテンが含まれる食事で体調が悪くなっていました。そこでグルテンフリー食がそういった方の食生活の解決策として勧められるようになっています。
 
日本ではセリアック病は欧米程は多くないと言われています。セリアック病は内視鏡の検査とグルテンフリー食で症状が改善することを確認することで診断ができます[3]。また、グルテンに関連した免疫の異常が原因と言われており、抗体を血液検査で見つけることでも診断ができるのではないかと言われています。
しかし、セリアック病と言えないグルテン不耐症の存在も指摘されており、日本にも潜在的にそういった方がいると推定されているようです[4]。
 
そんな背景があるなか、巷では『そもそもグルテン自体が体に悪い』という説があふれており、グルテンフリー食をグルテン不耐症以外の人にも進める動きが見られるようになりました。
 

グルテンと冠動脈疾患

“体調が悪くなる”のと”冠動脈疾患”は直接的には関係はありませんが、セリアック病の方ではグルテン摂取を続けると体の炎症が持ち上がり、長期的には動脈硬化が進み心筋梗塞などの冠動脈疾患が増えることが知られています。それが一般の人口にも当てはまるのか?ということを検証した研究です。
 
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グルテンは冠動脈疾患の発症は無かった。むしろ体に良い全粒粉の摂取が減ることでグルテンフリーの方が心筋梗塞のリスクになる可能性
研究はなんと1986年の頃からアンケート形式で調査が始まり、アンケート内容から食事内容・グルテンの摂取量を計算したものです。アンケートの対象は合計11万人にもおよび、彼らの食生活の分析と冠動脈疾患発症の関係が報告されました。結果としては、統計学的には意味のある差は心筋梗塞の発症率には見られませんでしたが、傾向としてはグルテン摂取量が多いグループの方がわずかに心筋梗塞の発症率は低いことがわかりました。さらに細かく見たサブ解析の中では、特にグルテン摂取が少ないグループの中に全粉粒摂取が少ないグループがおり、そういった人たちは心筋梗塞の発症率が高いことが分かりました。これまでに行われた調査では全粉粒は冠動脈疾患のリスクを減らすことが報告されています[5]。この結果から、セリアック病を有する訳ではない人々にグルテン摂取を減らすメリットが有るわけではなく、勧められない、という結論が得られました。もっとも、セリアック病でなくグルテンを摂取することで体調が悪くなるような人はグルテンを控えることで体調が良くなるメリットが有るようなのでそういった方はメリットがあるかもしれません。この研究には短期的な体調の変化などは考慮はされていません。
 
最近勧められるグルテンフリー食、長い目で見ると体に良い全粒粉を取らなくなることで心臓の病気の発症につながってしまうのかもしれません。
 

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Abstract
・Objective
長期のグルテン摂取と心血管疾患の関連を見ること。
 
・Design
前向き観察研究
 
・Setting and participants
64714名の女性と45303名の男性。心血管疾患が無いこと。
アンケート形式で行われた。1986年から、4年おきにアップデートされ、2010年まで行われた。
 
・Exposure
グルテンの消費量をアンケートから推定した。
 
・Main outcome measure
心血管疾患(死亡に至る、あるいは死亡に至らない心筋梗塞
 
・Results
26年間のフォローアップで2273931人年の追跡が行われた。
2431名の女性と4098名の男性が冠動脈疾患を発症した。
5分位で最低のグルテン摂取のグループでは352名/100000人年の割合で冠動脈疾患を発症した。
5分位で最高のグルテン摂取グループでは277名/100000人年の割合で冠動脈疾患を発症した。
既知のリスクファクターで調節した場合にグルテン摂取が最も多かったグループでの発症リスク(HR)は0.95(95%CI 0.88-1.02, P= 0.29)であった。
whole grain(全粒粉)の摂取での調節を行った場合、HRは1.00だった。refined grain(精製粉)での調節を行った場合はグルテン摂取は冠動脈疾患を減らす傾向があったHR 0.85 (95%CI 0.77-0.93 P value=0.002)
 
・Conclusion
長期のグルテン摂取は冠動脈疾患のリスクとは関連が見られなかった。
グルテン摂取を避けることは利益をもたらす可能性がある全粒粉を減らすことなり、心血管疾患に繋がる可能性がある。
 
[1] B. Lebwhl, et al. Long term gluten consumption in adults without celiac disease and risk of coronary heart disease: prospective cohort study. BMJ 2017;357:j1892

http://dx.doi.org/10.1136/bmj.j1892

http://www.bmj.com/content/357/bmj.j1892

[2] 製粉振興会  小麦・小麦粉に係る基礎知識

http://www.seifun.or.jp/kisochishiki/tanpakusituguruten.html

[3] 岸昌廣ら. Celiac病. G.I. Research 2015;23:65-69
[4] 渡邉知佳子ら. セリアック病・non-celiac gluten sensitivity 研究の最前線. 分子消化器病 2015; 2: 38-43
[5] Aune D, et al. Whole grain consumption and risk of cardiovascular disease, cancer, and all cause and cause specific mortality: systematic review and dose-response meta-analysis of prospective studies. BMJ. 2016 Jun 14;353:i2716. doi: 10.1136/bmj.i2716. http://www.bmj.com/content/353/bmj.i2716.long

 

 

 

China 2049 (マイケル・ピルズベリー)

 

China 2049

China 2049

 

 

  • 序 章 希望的観測 
  • 第1章 中国の夢
  • 第2章 争う国々
  • 第3章 アプローチしたのは中国
  • 第4章 ミスター・ホワイトとミズ・グリーン
  • 第5章 アメリカという巨大な悪魔
  • 第6章 中国のメッセージポリス
  • 第7章 シャショウジィエン
  • 第8章 資本主義者の欺瞞
  • 第9章 2049年の中国の世界秩序
  • 第10章 威嚇射撃
  • 第11章 戦国としてのアメリカ
 
著者はCIAに長年つとめ、親中派としてアメリカの対中戦略のなかで中国の調査に長く関わってきた人物。ニクソン政権以来アメリカは中国との繋がりを深め、中国を支援する戦略をとってきた。しかし近年になり、中国のGDPは世界2位となり、アメリカに徐々に迫ろうとしている。中国はアメリカに従属しているわけではない。毛沢東共産党政権を立ち上げた1949年以来、それまでの数百年間欧米に握られていた主導権(覇権)を中国の手に取り戻すべく血汗にじむような策略を張り巡らしてきたその成果がそろそろ実現しようとしている。
 
中国の中にもタカ派ハト派がいるが、歴代の中国の共産党総書記はいずれもタカ派的な性格があり、自らの国を弱者として主張しながら強国より支援を呼びながら自国の経済を強化してきた。昔はソ連に、そしれ70年代以降はアメリカに肩入れをするようになった。だからといって中国が民主化されていったわけではない。覇権国の陰で力を蓄える方便にすぎない。中国の共産党は国の実権を握ってから100年に渡る長期的な計画を一貫して続け、覇権国の力を取り戻す計画を進めていった。中国の姿勢が一貫していることは、反体制派、民主主義を信奉する人々が虐殺された事件に対する強固な検閲の体制などからも伺える。この計画は中国古代の戦国時代の各国の戦略から学んだ様々な策を用いた総力戦によって進められた。春秋戦国時代の戦略は中国の指導者が常に用いてきた。欧米各国はそのことについ最近まで全く気づいていなかった。直接的な武力の衝突では勝てないアメリカに対して政治的な力を使ったり、経済力を増すことや、他国に間接的にアメリカの国力を削ぐ努力をさせた。そして2010年代になり総書記となった習近平はその演説の中で「中国の夢」という言葉を多用しついに中国はその野心を世界中にさらけだすようになったのだ。
 
標的の国へ送るスパイ、自国のインターネットに対する強力な検閲、敵の敵を支援するような武器の売買などは総力戦の中で戦略として用いられている。相手の国力を削ぎながら、自らは世界のルールを守らずに世界の組織(WHOや世界銀行)を最大限利用することで最大限の急成長を遂げてきた。日本のGDPを抜き、世界第1位のGDPを持つアメリカを射程圏内にまで追い込んでいるのが2010年代の中国である。まだ軍事力はアメリカには及ばず、軍事への投資は遥かに少ないものの、経済力がアメリカを凌ぐようになった時、軍備拡張を行い世界の派遣をとることを視野にいれている。
 
中国が巧妙に立てた作戦で世界を牛耳ろうとするのを防ぐためにアメリカが(民主主義国陣営が)とるべき戦略についても明確に述べられている。総力戦には総力戦を、ということで中国のことをよく分析した上で対処を行っていくことが強調されている。
 
筆者はアメリカの対中国戦略の中心近くにいた人物であり、そんなに濃厚に中国との付き合いが何十年にも渡ってあるような人物がいまや明らかな中国の戦略に気づかないのは少し信じられないような気もするが、昔のはるかに貧しい中国を見てきたからそうなのだろう。非常に頭が良い方で、しかも綱渡りのような国と国の駆け引きのようなことまで考え、西洋から登用の戦略まで研究してきたからなのか、文章は非常に分析的で説得力がある。また、亡命者たちの証言などもより生々しさを増す。我々の世界で実際に起こりつつある大きな変動を感じさせる重要な本だろう。20世紀をよく知る我々にとってはアメリカこそがナンバーワンという意識が強いがすぐそこまで対抗する勢力は迫ってきている。

「思考軸」をつくれ ― あの人が「瞬時の判断」を誤らない理由(出口治明)

 
ライフネット生命の出口氏の著作。「インプット量を増やして判断力の下地を上げよ」というのが端的なメッセージ。
自称「歴史オタク」の著者が書いただけあり、様々な所に引用のようなものがあるのが印象的。
ライフネット生命金融庁に免許を許可されたときの話なども少しあるが、仕事を冷静にするために必要なのは様々なインプットである、
といった内容が取り上げられられる。
 
多くの本を読み様々な考え方に触れることや、世界各地いろいろな場所を訪ね歩くことなどなどが取り上げられている。
著者は幼少期に学校の図書館の本を読破したらしい(!)、またこれまでに世界各国の1000以上の都市を訪れ、銀座の店を制覇したらしい。
おそらく興味の軸が広く、どんどんと新しいものを取り入れたいのだろう。
 
歴史的な事例に学ぶことや世界各国のことに学ぶことなど、様々な軸を身につけることで判断の材料にする。
人間の判断力はこれまでの自分の経験に基づくものであり、長考することでのメリットが大きいわけではない、だからこそ瞬時の判断力を磨くためにインプットが必要なのだそう。
ダニエル・カーネマン(Thinkig fast and slowの著者)の理論的に言えば直感を司るtype I思考をじっくり考えるtype II思考よりも重視するような人なのだろう。
学問的なことのような検討が必要なことには個人的にはtype II思考のウェイトが思いとは思うが、ビジネスのようなシーンではtype Iは力を発揮するのかもしれない。
 
週に5冊くらいは本をよむということからも本当にインプットの量は多いよう。日本生命に勤めていたときは毎日飲みに行っていたと言うからよっぽど人脈などを大切にする人なのかとおもったら、ビジネスに対する考え方は非常に冷静で合理的な判断を行う人なのだと感じた。大量のインプットがあるから判断も冷静に自分の軸をもとに下せるのだろう。
 
本書にはあまりアウトプットのことは書かれていないが、著作をAmazonで検索すると膨大な数が出てくる。
アウトプット力も相当なもので、あくまで仕事をするため、アウトプットをするためのインプットであることを現実世界で思い知らされる。ただ、もう一つ、本書で印象に残ったのが、何かを得るためには何かを捨てなければならないトレードオフの概念。何でもかんでもできるわけではないらしい。
フットワークとハイパーなアウトプット力はぜひとも見習いたい。
 
◯参考;ダニエル・カーネマン ファスト&スロー
type I思考やtype II思考の考え方を認識することは現実社会の判断の場面においても非常に役に立つ。

 

ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか? (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
 
ファスト&スロー(下) あなたの意思はどのように決まるか? (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)